柏乗馬クラブ代表 山蔦 幸太郎さん

人と馬と農業と。

馬も農業も自分にとっては同じもの―
そう語る山蔦さんは、乗馬クラブの本業のほかに“農業人”としての顔をもつ。
人と馬がいて農業があって、自然と出来上がっていった循環を大切にしながらつくばみらい市の農業を活性化すべく奮闘している。

父の後を継ぎ、25歳で乗馬クラブへ

つくばみらい市にある柏乗馬クラブは、日本の馬場馬術の草分け的存在で、国内外を問わず多くの選手を輩出、創設は50年近く前にさかのぼる。山蔦幸太郎さんは創設者である父、山蔦紘三郎さんとともに、5年前に柏市(千葉県)からこの地に移った。子どもの頃の住まいは旧谷和原村(現つくばみらい市)にあり、父が経営する乗馬クラブとは離れていたこともあって、幼い頃に馬に乗った記憶はない。
柔道を習ったり、可愛がってくれた祖母と一緒に野菜作りを楽しむような少年だった。また、華道や茶道などの習い事をたしなみ、20代前半には10カ国以上の世界各地を旅して回った。言葉も通じない外国で、役に立ったのは華道や自動車整備の腕だった。海外で信用されるためには、自国の文化に精通し、確かな技術や知識があることが大事であることを実感したという。
帰国後は父の後を継ぐことを決め、他の乗馬クラブで5年間基礎を学んだ。厳しいトレーニングもあったが、時間を見つけて野菜を育てた。小さなスペースを耕して野菜を作り、収穫して食べる。育てる楽しみ、食べる喜び、「おいしいね」と食べてもらえる嬉しさ、それは幼い頃祖母と一緒に畑で過ごした日々を思い出させ、自然と農業に惹かれていった。
そして、おいしい物を作って食べさせたいという思いは、結婚して子どもが生まれてからますます強くなり、つくばみらい市にクラブを移転したのを機に本格的に循環型農業を始めたのだ。

馬ふん堆肥でおいしい野菜を

山蔦さんが取り組んでいるのは無農薬の有機農法。おいしい野菜を作るためには土作りが肝心で、畑で使用している肥料は、すべて乗馬クラブの馬の馬ふんから作った堆肥だ。「うちでは馬の健康にとても気を遣っています。良いえさを与え、最高の調教をする。手をかけて世話をしながら馬には『人を乗せて、共に生きる事』を教えていきます。毎日毎日地道な作業の繰り返しですが、安全に楽しんで馬に乗れる環境を作ることがクラブの基礎だと考えます。そして、良い環境で育った馬が、良い堆肥を作る。馬との共生は、安心安全でおいしい農作物を育てるうえでも大事なことなのです」と山蔦さん。
堆肥は近隣の農家にも分け、農家からはワラや籾をもらって馬の敷床などに利用する。「このように馬を育てることと農業は循環しています。自分の場合、身近にあった二つの歯車がうまくかみ合って回り始めた感じです」。
山蔦さんが作る馬ふん堆肥は「他の肥料とは作物の根の張り方が違う」と農家の人たちにも好評で、「専門家の人が褒めてくれると、自分の努力が認められたようで嬉しいですね」と顔をほころばせる。「おじちゃん、おばちゃんは知識の宝庫」と地元の人に教わることが多い一方、珍しい野菜を育てていると作り方を尋ねられたり、相談を受けることもある。
「自分のような“新参者”が地域に入ることで、お互いが活性化して元気になれる。ここに来て本当によかったと思っています」と、地域にすっかり溶け込み、新しい風を吹かせようとしている。

安心安全な野菜をお客さんのもとへ

おいしくて安心して食べられるものを作りたいと手間暇をかけて農業に向き合っている山蔦さんだが、どんなに良い物を作ってもその良さを分かってくれなければお客さんの元には届かない。山蔦さんが作る野菜は無農薬ゆえ虫食いも多く、産直所などでも置いてくれないことがある。そんな野菜を「新鮮で美味しい」と手にとってくれるのが乗馬クラブのお客さんたちだ。
山蔦さんのお母さんが漬物にしたり、火を通したりとひと手間かけた野菜は、野菜本来の旨味がさらに引き出され、味と香りが強いと好評だ。「昔は魚屋さんが魚のおいしい食べ方を、お肉屋さんがお肉の調理法を教えてくれました。でも今は何でもスーパーで買うようになって誰も教えてくれない。野菜のおいしい食べ方は作っている農家が一番わかっています。それをお客さんに教える役割を母がしてくれるのはありがたいです」と山蔦さんは語る。

地域全体が活性化してく未来を

つくばみらい市には農業を営む若手経営者11人で作る「つくばみらい4Hクラブ」があり、山蔦さんもその一員。研修会を開いたり、地元パン屋さん(ブルーマロン)とつくばみらい市産の野菜を使ったパンを試作するなど、これからの農業について語り、日々切磋琢磨している。市の特産品である「つくばみらいプレミアム」にも「4Hクラブ」のメンバーが作った品が数多く認定されている。山蔦さんが馬ふん堆肥にこだわって栽培し、低温で1カ月発酵熟成させた「熟成黒にんにく」もその一つだ。
柏乗馬クラブには遠方から乗馬を習いに来ている方も多い。広々とした馬場で馬に乗りつくばみらいの自然に触れリフレッシュして帰る方も。「馬がきっかけで、茨城を好きになって貰えれば嬉しいし、会員さんの中には、乗馬のあとに農作業をしていく方もいます。例えば、地元の食材を使ったレストランで食事をとり、直売所でお土産を買って帰るような人の流れを作れば地元全体が潤うことができますよね」。
馬ふん堆肥を使って作る野菜のおいしさが認められて「つくばみらいの野菜」というブランドが知られるようになり、多くの人に食べてもらえることが出来ればと山蔦さんは考えている。農業の循環だけでなく、地域全体で多くの人や産業が循環すること、いろいろなものをつなげてみんなで盛り上げていきたい。人がいて、馬がいて、農業があって、自分もまた大きな循環のなかの一部分であることを、山蔦さんは感じているのかもしれない。

 

 

プロフィール

山蔦 幸太郎  Koutarou Yamatsuta

1972年    千葉県柏市生まれ。つくばみらい市在住。
地元の小絹小学校・谷和原中学校、茨城県立守谷高等学校卒業。
2009年    つくばみらい市に乗馬クラブを移転。
2013年    柏乗馬クラブを引き継ぐ。

柏乗馬クラブ http://kashiwa-rc.jp/
柏乗馬クラブでは体験乗馬ができるほか、子ども向けにポニーと触れ合うポニースクール(5歳〜小6)、乗馬と農業を体験する乗馬スポーツ少年団(小1〜高3)のメンバーを募集している。

 


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