障害福祉サービス事業所「スマイル・ぴーす」施設長 稲川 めぐみさん

障がいのある人が成長し、自立できる施設を目指して

障害のある人たちが少しずつでも成長し、自立できるように手助けをする。
そんな事業所を目指して障害福祉サービス事業所「スマイル・ぴーす」を開設した稲川めぐみさん。
一人の主婦から転身し、現在に至るまでのさまざまな思いを伺った。

「スマイル・ぴーす」とは?

   龍ケ崎市の閑静な住宅街の一角にある「スマイル・ぴーす」。中庭のある広々とした一軒家には車いすでも楽に出入りができるようスロープが設けられ、室内もバリアフリーで移動しやすいようになっている。現在、ハンディキャップのある五人の若者が通い、9時〜16時まで生活を共にしつつ、みんなで協力して裂織の作品の製作などを行っている。
稲川さんが「スマイル・ぴーす」を開所したのは一年半前のこと。三年かけて準備を進め、NPO法人の認定を取り、やっとのことで開所にたどり着いた。「法律の知識も経理の経験も全くない主婦だったので、学ばなければならないことが多く本当に大変でした」と語るが、それでも事業所を始めようと思ったのは、一人娘の葵さんを育てながら障がい者を取り巻く環境を整備することの大切さを実感したからだった。

ハンディキャップのある子の親として

今年20歳になる葵さんは生後六か月のときにウエスト症候群(難治性てんかん)を発症し、右半身の麻痺と知的障がいが残った。小・中学校は地元の普通学校の支援学級に通学して、健常者の子供たちと一緒に過ごした。「子供たちは全く偏見がなくて、娘にも普通に接してくれました。常に気にかけてくれて、娘ができないこと、不自由していることは自然に手助けをしてくれる。本当にすごいことだと思いました。おかげで娘は自分の障がいを気にすることなく、充実した学校生活を送ることができました」。
小学四年〜中学三年まではダンスサークルにも参加し、健常者の子供たちと一緒に踊れるように努力を重ねた。「無理だと思ったことも頑張ったらできた!という体験を積み重ね、少しずつハードルを上げることで、みんなと一緒に楽しむことができました。障がい者だからここまでしかできないと決めつけずに、いろいろなことに挑戦させることが大事であることを学びました」と稲川さん。ダンスを一緒に楽しんだ友達との交流は今でも続いており、「親子で本当に楽しい時間を過ごさせてもらいました」と語る。
そして葵さんが中学を卒業するとき稲川さんはある決断をする。それは葵さんを手元から離して寄宿舎のある学校に入れること。通常、障がいのある生徒が学ぶ特別支援学校は高等科までしかない。健常者なら大学・大学院と進むことができる学びの場が18歳までしか用意されていないのが現状だ。学ぶのに時間がかかる障がいのある子にこそ、もっと学ばせてあげたい。そんな思いから全国的にも珍しい、専攻科まで備えた県外の特別支援学校に入学させることにした。一人っ子でどうしても手を掛け過ぎてしまう自分を振り返り、自立する絶好の機会であるとも考えたという。

自分に与えられた五年間の自由時間

こうして葵さんが家を離れる五年間は自分に与えられた自由時間―そう発想を転換させた稲川さんは常々感じていた思いを形にするために積極的に活動を始める。「高等部を卒業した子供たちが社会で活躍できる場は決して多くありません。せっかく学校で文字を習い、計算を覚えても卒業して使わなければ忘れてしまいます。誰でも成長できる力を持っているのに、その力が十分に発揮されず、家に引きこもってしまう子もたくさんいます。そこで学校を卒業した子が少しずつ成長できて、自分の力で生きていけるような場を作りたかったのです」と語る。
まず稲川さんは三重県にある障がい者のための事業所を度々訪れた。一人ひとりの能力を落とさないように指導する方針は、稲川さんの目指す事業所像とも重なった。障がいがあると、最初から出来ないと決めつけられて教えてもらえないことが多々ある。でも本当に障がいのせいなのか。経験不足や最初から諦めてしまう甘えのせいではないのか。たとえ障がいがあっても出来るようになるはずと信じることが大事であるという考えに、稲川さんは深く共感したという。
さらに都内の短期入所の施設で生活指導員として一年半働き、セミナーなどにも通って成人の障がい者支援について学んだ。それと同時に事業所開設のための準備も着々と進め、ついに2012年4月「スマイル・ぴーす」を開設したのだった。

みんなで協力して裂織作品を製作

「スマイル・ぴーす」では、みんなで協力して裂織の作品を作るのが日課だ。裂織は古布を細く裂いて麻糸などと共に織り上げた織物。五人は布を裂いたり、織機で織ったり、それぞれが自分にできる作業を行う。最初はおぼつかなかった作業もみるみる上達し、最近は指導をしている先生も驚くほどの作品が仕上げらえるようになった。
裂織の材料を調達するにあたって稲川さんが注目したのがリサイクル店。古着を扱う店なら廃棄してしまう衣料もあるはず。それらを譲ってもらえないか。そこで「WonderREX竜ヶ崎店」に相談したところ快く協力を申し出てくれた。さらに「スマイル・ぴーす」の活動にも賛同し、店内に作品を販売するスペースまで設けてくれた。現在、コースターやランチョンマットなどの小物を販売しているが、自然で素朴な風合いが好まれ、売り上げも上々だという。

746person2自分の役割をもって自立できるように

「スマイル・ぴーす」が目指しているのは、単なる作業所ではない。「三人の職員がいますが、私たちの仕事は〝してあげる"ことではありません。彼らがどうしたらできるようになるのかを考えることが私たちの仕事だと思っています」と稲川さん。ここでは自分のことは自分でするのが基本。食事の準備や片付けは、全員が役割をもって協力して行う。おやつの内容を決める〝おやつ会議"では何を何個買うか、お金はいくら必要かを話し合い、計算して買い物に行く。日常の中で生活する力をつけていってほしいと、最小限の手助けしかしない。成長を促し、成長を助ける事業所でありたい、それが「スマイル・ぴーす」が理想とするところだ。
当面の目標は裂織をメインに作品を製作・販売し、工賃を払えるようにすることだ。「障がい者の施設だから安くて当たり前ではなく、一人一人が自立できるだけの収入が得られればと思っています。そのためには厳しさも大事。障がいのあるなしに関わらず、働くことは厳しいもの。そんな当たり前の〝働くことの厳しさ"も感じつつ、成長していってほしいと思っています」と稲川さんは語る。

まだまだスタートしたばかりの「スマイル・ぴーす」だが、稲川さんの志に共感を覚える人も多いだろう。ハンディキャップのある人が社会の中で当たり前に生活できるために、「スマイル・ぴーす」は心強いサポーターとなってくれるに違いない。

プロフィール

稲川 めぐみ  Megumi Inagawa

「スマイル・ぴーす」施設長
秋田県生まれ。龍ケ崎市在住。
2011年4月    特定非営利活動法人「一会」設立
2012年4月    障害福祉サービス事業所「スマイル・ぴーす」開設。
現在、通所者5人、スタッフ3人。

■Information
「スマイル・ぴーす」では通所者する仲間、そしてボランティアを募集しています。


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