(株)オーサト 代表取締役 大里 孝仁さん

美味しく、安全で、低価格。丹念につくられた納豆を多くの人に

昭和2年に創業してから納豆一筋90年。
大粒大豆の美味しさを活かそうと誕生した「雪誉」は2月に開催された第20回全国納豆鑑評会において「農林水産省食料産業局長賞(大粒)」を受賞。
おいしさの秘密とは?こだわりとは?
納豆作りにかける思いを大里さんに伺った。

昭和の初めに筑波山麓で創業

日本人の食卓に欠かせない納豆。かつて日本の農村では家庭で手作りするのが一般的だった。そんな時代に筑波山の麓で納豆屋を始めたのが、大里さんの祖父。創業から10年後に千葉や東京に販路を広げやすい取手に移ったものの、祖父は早世し、祖母が社長となって現在の経営の基盤を築いた。その後父が後を継ぎ、父から経営のバトンを渡されたのは12年前。水戸といえば納豆、と全国的に認知されているように、茨城は納豆の消費量が多く、納豆業者も30社くらいある。競争も厳しい中、大里さんは常に「他とは違うこと」「自社らしさ」にこだわって製品作りをしてきた。

独自の発想で商品開発

大里さんは大の車好き。自動車整備士の学校で学び、自動車メーカー「マツダ」のディーラーで6年間働いた経験をもつ。「マツダ」は自動車業界の中では決して大きくない。そこで学んだことは、トヨタや日産など大手と同じことをしていては車は売れないということ。個性豊かな車両の開発、大手にはないきめ細やかなサービスなどがマツダの特徴である。大里さんもお客さんを大事にし、丁寧に接客することを心がけた。その当時の経験が、業界は違うが今の会社の発展に大いに活かされている。
例えば同社の看板商品である「昔ながらの納豆屋さん」。納豆といえば食べやすさを重視した小粒が主流の中、「完熟していない小粒の大豆を使うより、完熟した大豆のほうが断然味がいい」と中粒の大豆を使用することを提案。そしてパッケージも納豆といえば赤い包装が一般的だったが、「赤い物の中に黄色があったら目立つでしょう」とそれまでにない明るい黄色を使用。昔の懐かしい中粒の味をイメージしたネーミングも消費者の目を引き、ヒット商品になった。
鑑評会で第12回・13回に続き、今回3度目の受賞をした「雪誉」も「他と違うものを」という発想から生まれた商品。「雪誉」の特徴は、なんといっても驚くほどの粒の大きさ。使用しているのは「ユキホマレ」という大粒の北海道産大豆。いろいろな大豆で試作をくり返す中、ユキホマレで納豆を作ってみたところ、その美味しさに大里さん自身が感動し、即、製品化を決めたそうだ。せっかくの香り高い大豆の風味を活かすよう歯ごたえを残して固めの食感にし、タレも薄味にした。他と差別化し高級感を出すために、黒を基調に日本酒をイメージした包装のデザインにしたが、スーパーで気軽に手に取ってもらえるよう、価格は極力抑えた。一般的な納豆のイメージとは異なり、もっちりとした食感で大豆の風味が口いっぱいに広がる「雪誉」は、鑑評会でも高い評価を得、受賞へとつながった。「違う業界にいたので、納豆に固定観念がないんですよ」と語るその柔軟な発想が、数々の人気商品につながっているのだ。

安全、美味しい、低価格の商品を

大里さんのこだわりは「安全、美味しい、低価格の商品を作ること」。穏やかな語り口の中にも、納豆にかける熱い思いが感じられるが、「子供の頃は家が納豆屋というのがイヤでね。中学や高校の頃は人に話したことがなかったですね(笑)。納豆も家ではあまり食べなかったな」と子供時代の思い出を語る。
納豆の魅力に気付いたのは大人になってから。「おいしくて身体によくて安い。毎日食べられる気軽さがいい」と納豆の庶民性に注目し、「高級品の納豆にはあまり興味がない」と言う。「納豆の原料は大豆と納豆菌だけ。他の添加物を一切加えないから、納豆の美味しさは大豆で決まるといっても過言でありません。おいしい大豆にはこだわりますが、わざわざ余計な手間をかけたり、高い包材を使って価格を上げるようなことはしたくない」と多くの人に食べてもらえることを第一に考えている。
そんな大里さんに好みの食べ方を尋ねると「添付のタレとカラシだけで味付けし、ご飯にかけずにそのまま食べる」とごく普通。「もっとも美味しく食べられるようにタレの味を工夫し調整しています。納豆の美味しさを味わうにはシンプルに食べるのが一番!」。普段はお酒のつまみに食べることも多いそうだ。
そして「納豆は必ず冷蔵庫で保存してください」と強調する。納豆菌は生き物。常温に置いておくと二次発酵が始まってしまい味が落ちる。工場ではもっとも美味しい状態で出荷しているので、購入後はすぐに冷蔵庫に入れ、なるべく早く食べること。それが美味しい納豆を食べるために重要なことだそうだ。

多くの人に納豆を届けたい

健康ブーム、和食ブームで海外でも納豆が注目されている昨今だが、国内のメーカーはこの10数年で半数近くまで減っている。「価格が安すぎて商売にならないから」だそうだ。大豆の値段は年々上がるのに、商品の値段は据え置き。毎日食べる物だからこそ1円でも値上げをすると売れなくなる。そんな厳しい価格競争の中で生き残るための戦略に頭を悩ませる日々だ。1988年には、あまり納豆になじみのなかった関西向けに、納豆のにおいを抑えるためにシソ海苔入りの甘めのタレを付けて売り出した。その食べやすさが好評で関西での納豆の消費に一役買ったことも。今後は海外も視野に入れて、販路を見出したいと考えている。
「食物繊維が豊富で身体にいい納豆を、もっと多くの人に食べてもらいたい。大手では出来ないこと、うちの会社だからできる事をこれからも丁寧に続けていきたい」。大里さんのそんな願いは、海を越えて、海外にも届くかもしれない。

プロフィール

大里 孝仁   Takahito Osato

1964年    取手市生まれ、取手市在住。
2003年    (株)オーサト3代目社長に就任。
2007年    第12回全国納豆鑑評会にて「雪誉」優良賞受賞
2008年    第13回全国納豆鑑評会にて「雪誉」優良賞連続受賞、茨城県より「いばらきハサップ」に認証
2012年    茨城県知事より食品衛生優良施設の表彰授与
2015年    第20回全国納豆鑑評会にて「雪誉」優秀賞(農林水産省食料産業局長賞)受賞