TOSS放課後の机  根本修成さん、鈴木はるみさん

「苦手な跳び箱が跳べた!」子どもの自信につながる成功体験を

跳び箱が跳べない…
体育の授業でそんな悔しい思いをしている子どもたちが跳べるようになるよう「跳び箱教室」を始めて11年。
「跳べた!」という自信と輝く笑顔を一人でも多くの子どもに届けたいと、現役の先生たちでつくるサークルが教室を開催している。

誰もが跳べるようになる「跳び箱教室」

「跳び箱教室」はまず準備運動から始まる。大事なのは片足で跳んで両足で着地する「ケン・ケン・パー」と、かがんで手を付き足を持ちあげる「カエルの足うち」。昔の子どもたちは遊びの中で自然に行っていた動作だが、今では外で遊ぶ機会が減りうまくできない子もいる。この二つの基本的な動作ができないと跳び箱を跳ぶのは難しいため、これらの運動の重要性を保護者に解説し、子どもたちは準備運動を繰り返す。次につなげた跳び箱の上で腕を支点にしてお尻を持ち上げて移動する動作を行って体重移動の感覚を体得し、走ってきて跳び箱に跳び乗る動作へとつなげていく。子どもたちは徐々にコツをつかみ、やる気も出てきて1〜2時間で参加者全員が跳べるようになるという。跳べたときの子どもたちの自信と達成感に満ちた満面の笑みに、周りからは大きな拍手と歓声が沸き上がるそうだ。
跳び箱教室は保護者同伴での参加が基本。それは子どもたちの頑張る姿を見守り、できたときの喜びを共有してほしいという思いからだ。保護者からは「子どもの無限の可能性を実感させられた」「跳び箱が跳べるようになるのを間近で見ることができてとても感動した」「自信も興味もなかった子どもの表情が、だんだん変わっていくのを見て嬉しかった」などの感想が寄せられるという。

成功体験を子どもの成長の糧に

「跳び箱は誰でも跳ばせられる」と指導にあたる中学校教員の鈴木先生。「跳ばせる技術があるので、それを指導者が習得するだけ」と語るが、教育の現場ではなかなか学ぶ機会がないため、指導できない教員も多い。そこで「跳び箱教室」には現役の先生も見学にやって来る。跳び箱はできる、できないがはっきりする種目。そのため、できない子が学校で悔しい思いをすることも多い。「何かができたという成功体験は大きな自信につながります。それを積み重ねて自己肯定感をもって成長し、社会の中で自己実現できる大人に育てることが教育の役目だと思っています」と語る鈴木先生。「できなかったことができるようになる」という体験は、子どもの成長過程でとても重要なこと。その手助けをしてあげることで、子どもが健やかに成長することを願っている。

教師にとっての学びの場

「跳び箱教室」を主催する「TOSS放課後の机」は、県南地域の現役の先生たちのサークル。月1回集まって、授業の内容や指導方法についてお互いの実践を持ち寄って学び合い、意見を交換し合っている。教員は通常、教員免許を取得し、採用試験に合格すると正規の教員として配属される。研修期間というものがなく、約一ヶ月の教育実習を行ったのみで、いきなり教師として生徒たちの前に立つことになる。当然、教師の戸惑いも多く、今はベテラン教員となった根本先生も「最初は子どもたちをどうやって整列させるのか、朝の会はどうすすめるのか、席順や班はどうやって決めるのか、そんなことからして分かりませんでした」と話し、大学で生物を学んで中学校の理科の教員になった鈴木先生は「専門の生物だけでなく、物理や化学、地学など理科全般を教えなければならないので、最初はとても戸惑いました」と新任当時を振り返る。そんなとき、TOSS(Teacher’s Organization of Skill Sharing : 教育技術を分かち合う教育団体)で出会った先輩の先生方のアドバイスがとても参考になったそうだ。


子どもができない原因を探るのが教師や親の役目

教師が確かな技術をもって教えれば、子どもは誰でもできるようになるというTOSSの考えのもと、子どもに力をつける教育技術を教員同士で共有しようと模擬授業などの勉強会を行っている「放課後の机」。「体育は〝根性〟で、できるようになるわけではない」と語る鈴木先生は「〝できない〟には、必ず原因があります。その原因を追究しなければ、ただ〝がんばれ〟と励ましたところで子どもはできるようにはなりません。これは教科の勉強にもいえることです。子どもができない場合、教師や親はできない原因を探ってあげることが大事なのです」と、教師や親の在り方を示す。この機会に親として子どもにどう接しているか、子どもにどんな言葉かけをしているか、振り返ってみてはどうだろう。
子どもは一人一人違うもの。また成長の過程で変化していくもの。何年も子どもを見守っていても、毎日が新しいことの発見であり、対処していかなければならないのは教師も親も同じこと。そのことを実感しているからこそ教師経験を重ねても学ぶことを怠らない先生たちが「放課後の机」に集まって来る。自分が知っていることや体験したことを伝え、知らないことは教えてもらう。そんな関係がサークル内にできあがり、お互いが刺激し合い、自らの指導に役立てているそうだ。
「教師にとって子どもたちの『できた!』『わかった!』という笑顔が何よりのプレゼント」と語る鈴木先生。普段の学校生活でわかる授業をするために工夫を凝らす一方、子どもたちの笑顔に励まされてこれまで「跳び箱教室」も続けてきた。これからも一人でも多くの子どもたちに自信と達成感を実感してもらえるよう、「跳び箱教室」を続けていくつもりだ。

プロフィール

TOSS放課後の机  根本修成さん、鈴木はるみさん

子どもに成功体験を積ませるイベントや子どもの教育に携わる人々への研修会に関する事業を行う。子どもの「たくましく生きる力」や子どもの教育に携わる大人の「教育力」の向上に寄与することを目的として、「跳び箱教室」の他にも、五色百人一首大会、伝統文化教室の運営、国民文化祭への参加等の活動を行っている。

写真:代表の根本さん(右)と跳び箱教室担当の鈴木さん(左)